何が空手か
空手とは何か、ということは通常あまり考えないと思います。競技もあれば練習もあります。皆さんは「空手」という名前でそれを行っています。名称は同じ空手でも、統括している組織によって内容が違います。流派も様々で、それらを総称して空手と呼ぶのでしょうが、本当にそれが空手なのか、という疑問もありますよね。
四大流派
四大流派というものがあります。それに絞れば空手の概念もはっきりするのかと言えば、流派間の差は非常に大きく、同じ空手なのかと疑問に感じるほどの違いもあります。自分免許で名乗る小流派まで加えれば、流派は二百以上あるでしょう。そこで世界的には「空手とは四大流派の空手が標準だ」と考えられているようです。四大流派とは、松濤館流、和道流、糸東流、剛柔流です。形競技の世界大会では四大流派の形以外は認められないようですから、この観点からは「空手とは四大流派の空手こそが本物である」と言うことになります。
六大会派
会派という組織もあります。全日本空手道連盟が認めている会派は六大会派と呼ばれ、松濤会、和道会、糸東会、剛柔会、連合会、錬武会です。この六大会派それぞれの中にいくつかの流派が含まれていたり、逆に四大流派の中に複数の会派が含まれていたりと、混然とした状況にあります。剣道や柔道のように統一されてはいないのです。そこで「何が空手なのか」という問題が起こってくるのです。
これを解決するために「四大流派」とか「六大会派」といった整理が考えられたのだと思いますが、それでも解決には至っていないのが現状でしょう。
解決に至っていないどころか、さらなる混沌を生み出している側面もあります。それは日本本土の形競技において著しいものです。全空連指定基本形がそれです。
金城先生の口癖
私に日常的に語り掛ける先生のお言葉に「空手とは何か」「何が空手か」という問いがありました。先生から見れば、それが空手か否かははっきりしていたのでしょう。入門当初にそれを聞かされた私は、「なぜ分かりきったことを先生は繰り返し問うのか」と奇異に感じた時期がありました。「僕らがいま稽古しているのが空手でしょう？」という思いだったのでしょう。新参の弟子には本当のことを教えておくことが必要だということでもあったと思いました。
起源は？ そのご変貌は？
唐手に起源を持たない空手、起源は唐手だが大きく変貌した空手（松濤館流）や流派や会派のことか、と私は最初は考えました。唐手とは全く無関係な空手も世間にはにあふれていました。具体的には。唐手と合気道を混合したもの（本部御殿手）、唐手と柔術を混合したもの（和道流）、糸洲先生の唐手と大正期に唐手になった宮城長順先生の唐手を混合したもの（糸東流）、唐手と全く根差さないない空手（グローブ空手）などです。
空手の理念
ところが、先生はもっと奥深くを見ていらっしゃったのだ、ということがだんだん分かってきました。
形を演武すれば空手なのか。組手で対戦すれば空手なのか。先生の目から見れば、どうもそういうことではなかったようです。例えば、形の動作が空手に合致しているか、組手でその技は空手として合理的か、空手の最終目的は何か――そういうことまでを含めた「何が空手か」という問いだったのです。
世界大会での団体型
形競技には「団体形」という種目があります。空手が格闘技術だとすれば、団体形というのはおかしなものですね。空手から派生した競技と考えれば否定するほどのことではないのですが、最後まで勝ち進むと「組手演武」が義務付けられます。先生と一緒に世界大会を見た時、先生は私に、
「あれは空手じゃないよ。」
と話しかけられました。倒れた相手に打撃を加えたからです。先生によれば、倒れた相手を攻撃するのは空手ではない。空手の目的は相手を取り押さえることでで、そのための手段として組手がある。組手で相手を制し、それに乗じて相手を倒す。そこで終わりだ。
というご意見でした。先生は「先輩たちからそう教えられてきた」と語られました。下の写真は、それを示したものです。空手の技術的な究極の目標は「取手」である、ということです。
左の写真は、ここから取手に入ります。最終的には足払い、膝で相手を抑えて終わります。写真は向って右が金城先生、左は日本空手道研修会第二代会長篠田剛先生です。
右の写真はトップページに使ったものですが、ここから右膝で私が抑え込まれました。
普段の練習では、ここで金城先生はにっこりと笑って、
「どうかね、君！」と取手のせいかをアピールします。